コラムColumn

2021.02.03

今週の気になる “味” 《わからない出汁》

出汁のきいた料理
ルーデンススタッフが気になることを綴るコラム、第3回です。 小雨そぼ降る1月。 とある「出汁(だし)」に出会ったことを書き残そうと思います。
お腹すいた。
健康診断のため、会社とは違うエリアのオフィス街に出かけました。午前中に胃の検査があると、前日の21時から絶食するため憂鬱な気持ちになります。
よし、きょうは外で昼食をとろう!と、お店を探しました。
そのオフィス街は碁盤目状に整備されており、中小企業のオフィスが入るテナントビルでびっしり。2階までバルや料理店が色とりどりです。ランチタイムは路面にお弁当販売のパラソルが開き、少しエレガントな装飾のあるビルには、夕方からネオンが灯る。活きたまちです。
少し浮かれて歩いていると、路面店ですが中は見えにくい、ランチメニュー黒板の文字が渋いお店がありました。夜は天ぷらのお店で、何となく「おいしそう」でした。
その勘を頼りにお魚の定食をお願いした時のこと。予想通り美味しかったのですが、とりわけ定食に添えられたすまし汁に、箸が止まりました。
? 何からとった出汁かわからない。
のです。
鰹じゃない(煮干しでも)、昆布じゃない、シイタケでもない。
なんだこれは?そして濁っていて、ところどころ黒い。
私は出汁にうるさくはないのですが、食に関わる親に育てられたので勘は悪くない方です。しかし、年季の入った漆椀にはわかめと豆腐しかおらず、澄まし顔。とてもとても美味しいのですが、まったりしている。感動とは逆に、私の顔は訝しげだったでしょう。
おかずより大事に、もう一口。
うーん、食べたことはある、丸いもの。
と、再び食の記憶をぐるぐるとかき回されました。
店員さんに聞けば良いのですが、次の5人グループの注文で忙しそうです。 結局聞けずに「全部すごく美味しかったです!」と伝えてお店を後にしてしまいました。
ただ、私は愉快でたまりませんでした。
出し抜けに、すぐに何か当てることのできない「お味」に会えた。まるであのグルメ番組の主人公のように、もう一度お店を振り返ったりして噛みしめたのでした。
雨の通りはまだつやつやと濡れており、お弁当を売り終えたパラソルはたたまれ始め、昼食を終えた人達がこころなしかゆっくりと歩く道を帰りました。
自粛体制が長引くことが決まり(2021年2月時点の首都圏)、外出や外食に緊張のあるこの頃ですが、店の暖簾が掛けられ明かりがともる頃、人の胃を満たす街はありがたく、温かい。
居酒屋さんなど、夜間の営業は未だ厳しく心が折れることもあると思います。
こちらも料理に携わる人達の技術と食材を作る人たちの労力に感謝して、できる対策をしながら出会いを楽しもうと思ったのでした。
※帰り道に、出汁の正体は黒いひだひだのあの食材だ、と思っています。冬が旬の、あれです。1000円を切るランチのお椀に、それを使っている粋さといったら。
(文:真栄城舞 写真:真栄城嘉敦)

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